こっけの造形日誌

駆け出しの趣味造形マンががんばって造形したり模型つくったりするのだ

自作塗装ブースについて思うこと

※塗装ブースの作り方というより考え方(?)の紹介記事になります

塗装ブースの購入って一歩踏み出すのに勇気がいりますよね。金額や性能もそうだし、良い物を選べばそれなりに大がかりな製品になっちゃうし。

昔は水性塗料メインで塗装していたのでミストだけ吸着できればいいやーとこんなのを自作して使っていました。でも水性といえど無溶剤というワケでは無いし、やっぱりサフ吹きや特殊な塗料(ラッカー系)も室内で吹きたいので、現在は我が家でも自作の塗装ブースを使用しています。
最近はホビー用の塗装ブースの市販品も多く、自作ブースのhow toも検索すれば沢山出てきます。ただ、商品レビューなどを見ると結構評価がピンキリで、評価基準が曖昧な商品なのかなーという感じがします。

今回は塗装ブース(特にファン)を選ぶ上でどんな所に気をつければいいか紹介してみます。かくいう私も素人ですが、学生時代に学んだ流体力学の微かな記憶や今のプラント設備系の仕事でかじった知識で、的外れな事は書いていないつもりです。塗装ブースで悩んでいる方の助けになれば…。

 

■我が家の塗装ブース

 まず、我が家のブースを紹介。

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シンプルの一言。自作定番のシロッコファンであるパナソニックFY-24BM6Kをそのまま横向きに置いて、ダイソーで買った籠(200円)の底に穴をあけてくっつけてるだけです。籠の側面は網目状に穴があいてたのでテープで塞いでます。中は100均にあった園芸用品の網(プランターの中敷き)を貼り付け、その上から換気扇フィルターを切り出した物をクレオスの交換用ハニカムフィルターで挟み込んでいます。

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ダクトはホムセンのアルミスパイラルダクト(口径φ100)を使用。管長およそ1.2m、90°の曲がりが2箇所ほど断熱材(所謂スタイロフォームを窓枠の縦サイズぴったりに切り出し、穴をあけてダクトを接続。それを窓へ立てかけ、100均の突っ張り棒2本で窓枠に押し付けてます。このままの状態で窓の開閉も自由です。ちなみに中途半端に2枚重ねてるのは余ったからで、1枚でも全然問題無かったです。写真では3Dプリンターの排気ダクトも1本繋がってます。
吐出側は窓の網戸があるため、思い切って虫除け網もフード・ガラリも付けず、解放状態です。

これらの条件で、エアブラシはもちろん缶スプレーまで殆ど吸ってくれます。ラッカー臭ほぼ無し!かなりパワフルです。まぁブース(フード)が狭いので缶スプレーは使いにくいですが…。

さて、定番シロッコファンで十分すぎる結果が出たわけですが、レビューによってはこの機種でもパワー不足という声もあったりします。結構パワフルなのに…。

これは、多くの人がファンの基本仕様に記載された「流量」や「静圧」をそれぞれ別個に見て性能を判断してしまったり、肝心のダクト形状や材質、長さなどの使用条件を加味していない状態でレビューし、それを見て購入してしまうのが原因だと思います。

 

■要求ファン性能はダクト次第で大きく変わる

そもそも「流量」や「静圧」って何?というと、「流量」が単位時間に流れる空気の量、「静圧」が空気をダクトへ押し込む際にかかる抵抗力(あるいは押し出す力)です。流量が多ければそれだけ沢山の空気を排出できますが、静圧性能が低いと障害物に負けて空気を送れなくなります。静圧に影響するのはダクトの形状や屋外フード・ガラリ等、空気の流れを阻害する要因になるものです。ダクト径がφ150からφ100に落ちるだけでもかなり静圧要求が高くなり、空気は流れにくくなります。

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https://www2.panasonic.biz/ideacontout/2019/10/03/2019100300220482.PDF

こちらが今回使用したファンの仕様と性能曲線です。
左の仕様を見ると風量216m3/hとなっており、ついココだけ見て風量の大きいものを選定しがちですが、ここに書かれている風量はあくまで静圧の掛からない(ダクトも何もつないでいない)状態での風量になります。実際は右図の性能曲線のように、静圧によって逐一風量は変わります。仮にダクトや屋外フード・ガラリ等を接続することで静圧が50Paほどあったとすると、風量は180m3/hに落ちます。

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https://www2.panasonic.biz/ideacontout/2012/06/07/2012060700091248.PDF

こちら極端な例ですが、パナソニック製の台所用換気扇(プロペラファン)。風量720m3/hとかなりパワフルな様に見えますが、静圧30Paの段階で風量まさかのゼロ。換気扇って風めちゃ強い日は排気するどころか戻ってきますもんね。多分これでブースを作るとなると、よっぽどダクト径がデカくて管長も短く(むしろ窓に直付けして出口側は開放状態にする等)負荷の掛からない構造でないとまともに排気できないと思います。
塗装ブースにプロペラファンをあまりオススメしない理由はこういうところにあります。それでも使う場合はなるべく静圧性能の高いものか、壁や窓に直付けしてダクトを排除すると良いです。それでも音はかなりうるさそうですが…。

 

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また上図のように風量と静圧を並記している場合がありますが、記載の通り「最大」の風量・静圧であり、実際には性能曲線を見てみないと分かりません。間違っても最大静圧の時に最大風量が出るわけではないので注意!

ファンのメーカーサイトに行くと、大抵の場合性能曲線が載っています。選定の際は見に行くことをオススメします。

 

■ダクトに言及しないブースやファンのレビューでは情報不足

ここまでで、ファンの性能を決める上で風量と静圧の関係が重要であり、静圧はダクト形状等の環境によって変わることが分かりました。じゃあそのダクト形状毎にどのくらいの静圧を見込んだら良いの?という話になると、人によって環境が全然違うので単純には計算出来ません。簡易計算式もあるようですが、それでも素人にはちょっと難しそうです。

少なくとも今回「私の環境」で言えるのは、

  • 定番品であるパナソニック製FY-24BM6Kを使用
  • アルミスパイラルダクト(φ100)で長さ1.2mほど、曲がりは2カ所
  • 屋外吐出側は網戸のみでガラリ等は一切付けない

という条件でなら、缶スプレークラスもガンガン吸いますよ!という事です。これがダクト長が2mだったり虫除け網やガラリを付けたりすると、また条件が変わる可能性があるわけです。ちなみにスパイラルダクトは管内が凸凹で損失が結構大きいため、高い静圧性能を要求されがちです。可能であれば塩ビ管(VU管)などの内部がツルツルの配管を使う(または併用する)と風量を増やせる場合があります。また、急激な曲がりなども損失になるため、避けられるなら避けたいところです。

本当はこういうダクト条件をもっと盛り込んだレビューが増えてくれれば良いんでしょうけど、酷いときはダクト一切つながない(静圧ほぼゼロ)状態でティッシュ○○枚まで吸い付きましたー!とか紹介してる動画や記事ありますからね…。静圧ゼロ条件ならカタログスペックそのまんまなので、果たして自作ブースを組みたい人にとって参考になるのか(全くの無価値ということもないですけど知りたい情報はそれじゃない的な)。

細かい事を気にしたくない、かつお金に余裕がある人であれば、パワフルなことで有名なネロブース(ファンは三菱製BFS-40SG?)等の性能に余裕のあるものを選べば良いかと思います。ただ、そういう商品のレビューであってもせめて使ってる環境のダクト長さくらいは載せて欲しいなー、と思う今日この頃です。

 

そんなこんなで、塗装ブースのお話でした。

ブースの形状?吸えりゃなんでもいいよ(暴言)